-よりよい合唱のためのメモ- 

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(C)2009 Kentaro Sato (Ken-P)

佐藤賢太郎がコンクール審査の時に使う審査チャート(PDF)

12/22, 2015 レガートの部分に加筆

9/17, 2014 発音(Diction)の部分を加筆・修整

4/12, 2013 発音(Diction)に「実践的IPA 歌と合唱のための日本語・ラテン語・英語の発音の勉強 」のビデオを追加

2/3 2012 男声のためのファルセット 加筆修正

1/7, 2010 ソルフェージュのページへのリンクを追加

11/29, 2009 ポテト・サウンド 追加

11/17,2009 フラットになる mp3追加 加筆

       息に関すること(Breathing)

11/5, 2009 男声のためのファルセット 追加

 私、佐藤賢太郎は、アメリカで本格的な合唱に出会い、縁があって合唱指揮で修士課程を修めることができました。そして幸運なことに、作曲家そして指揮者として、大学やワークショップでの教授・ゲスト指揮・指導など国を超えて多くの素晴らしい経験をさせてもらっています。おかげさまで、日本でも各地の合唱団にゲストとして指導をしにいく機会が増えてきました。それぞれ個性豊かな合唱団で、みなさんが仲間と共に一生懸命音楽に取り組んでいる姿を見るのは、楽しく、そして嬉しいものです。

 この文章は、指導していく中で気づいた日本の合唱団や歌手が陥りやすい落とし穴それに対するアドバイスを、メモ程度にまとめたものです。

 あまり重く考えず、「へー、こんなこともあるんだなぁ」ぐらいにサラッと読んでいただければ、と思っています。

準備運動(Warm-ups)

 準備運動・ウォームアップには、「体(声)を歌に適した状態に持っていく」という目的だけではなく、「心を歌に適した状態に持っていく」という目的もある、と思ってしっかりと行ってください(とれる時間は短いかもしれませんが)。合唱はチームプレーです。ウォームアップは、基本的には個人に焦点が当たるものですが、それでも「チーム」という意識がもてるウォームアップの動作を少し取り入れるとバッチリですね。

 また、体のストレッチは、どこをストレッチしているのが、伸びている筋肉や筋をしっかりと意識して行いましょう。身が入らない(half-hearted)ストレッチは、殆ど意味がありません。体全体のストレッチに加えて、顔の筋肉と舌のストレッチもしっかり行うと良いでしょう。

 ちなみに、日本人は顔面と舌の筋肉が全体として弱いので、普段からトレーニングをしておくと発音も良くなり、さらにしわも少なくなる(!?)と良いことばかりです。

姿勢に関すること(Posture)

 立っているときの正しい(自然な)姿勢ということは、よく意識されている方が多いと思います。ぜひ、つづけましょう!

 気になるのは、イスに座ったときの姿勢です。イスに座ると、ほぼ確実に骨盤が後ろに傾いてしまいます。それを元に戻すような形のクッションをいつも携帯している人は問題ありませんが、そうでない人は、イスのヘリにお尻が乗っているだけ、くらいになるように、立った時の自然な背骨と骨盤の形と角度を、なるべく維持出来るように座りましょう。

 また、立っているとき、太ももや膝の後ろに力が入りすぎて、足がカチンコチンになる人がいます。それを長時間続けていると、確実に貧血で倒れてしまいます。緊張は、息と声のサポートにも良くないことなので、特に膝を固めることが無いように、いつでもリラックスするようにしましょう。無意識に足が緊張する人は、屈伸をするのも良いかもしれませんね。

 体全体の意識としては、「緊張する可能性があるのは腹筋くらい」としておくとよいでしょう。

息に関すること(Breathing)

 息を吸うときには、いつでも「開いた息(Open Breath)」になるようにしてください。「開いた息」とは、鼻腔が開き、口蓋垂と軟口蓋が上がってスペースが確保された状態で吸う息、のことをいいます。もちろんスペースが確保された状態は、クラシックの歌には必須なことなのですが、歌うとき(息を吐くとき)だけ、そのような状態になる人がいます。息を吸うときも、常にその状態にないと、呼吸をするたびに口のスペースが変わってしまって、歌もデコボコになってしまいます。まず「開いた息」!と心がけてください。

 次に、日本で言ういわゆる腹式呼吸のことです。呼吸法には、一般的にイタリア風のものとドイツ風のものがあって、両方とも息を吸う時の基本的なコンセプトは同じですが、息を吐くとき(ささえ)の考え方が違います。それぞれの利点や、練習法、その他の注意点など、ここでは詳しくは触れませんが、以下の一文を良く覚えておいてください。

 「息を沢山吸うことが重要なわけではなく、息を効果的に吸い、効果的に声にしていくことが大切。」

発声(Voice Production)

 発声については、練習法など細かく書くことはここではしませんが、以下のことはとても大切なので、声を使うときにはいつも覚えていてください。

 「良い発声をしている限り、喉が痛くなることはありません」

 そして、健康で歌を楽しむために以下の事を、実践してください。

 「普段の話し声にも良い発声の要素を取り入れていく」

 「喉が乾燥することを避けましょう。定期的な水分補給、マスクをして喉鼻の湿気を保ったりすることも効果的です」

 「ホコリ・タバコも避け、定期的にうがいと鼻洗浄を行いましょう」

 「喉や筋肉は、口をあけたときに見えたり、動きや痛みを感じることができますが、声帯とその付近には痛点がない(痛みを感じることがない)ので、色々な病気の発見が遅れることがあります。もし声が出にくい状態が続いたり、声をコントロールするのが難しくなったと感じたら早めに医者に行きましょう」

母音の統一(Vowel Unification)

 母音の統一というのは、よく溶け合った合唱には不可欠の要素です。そして、これには2つの側面があります。

 1つは、団内で母音を統一させること、つまり「となりの人の母音と同じ質の母音を発音すること」です。これが、和音の(縦の関係)の響きが充実するのに大きく関わってきます。日本の団体の多くは、テナー高音域の「う」を除いては、わりと縦の響きの統一が取れている団体が多いようです。

 さて、もう1つの側面ですが、それは、使う母音全ての質を統一させること、つまり日本語なら「あ、い、う、え、お、のそれぞれの音の質が同じであること」です。これらの統一は、メロディー(横の関係)の響きの充実と滑らかさに大きく関わっていきます。日本語に限れば、多くの団の「あお」と「え」「い」「う」の質は全く異なり、とてもデコボコした印象を受けます。リズミックな曲や、線的な書き方をしている曲なら、ごまかしが効くのですが、同じ和音の上でゆったりと言葉を歌ったり、和音がゆっくり移動したりする曲だと、母音が変わるごとに響きがガタついてしまってスムーズなラインに聞こえなくなってしまいます。

 発音の項でも触れますが、母音の発音と、統一について団内で意識を高く持つと、より豊かな音楽作りができると思います。

母音の変化(Vowel Modification)

 高音域に行くにしたがって、日本語だと「い」「う」の母音は、低音や中音域では良かった発音の仕方では、声に出すのが難しくなります。楽な発声をするには、高音域に行くにしたがって、「い」を「え」のように、「う」を「お」のように感覚で発音するように変えてきましょう。必要ならば「え」も「あ」のように、「お」も「あ」のように変化させてもかまいません。テナーと特にソプラノはこのことを良く覚えておきましょう。厳密な発音にこだわって、高音域で喉を締め付けたり、舌が緊張してはいけません。高音域では「発音は、アルトやバスに任せるよ!」くらいに気楽に行きましょう。

 また、「長いウ(Long Oo)」や「歌のウ」(口語の日本語の「う」とは全く違う音です)は、そのままの形では、大きな音量を出すことができません。ですので、必要にならば「短いウ(Short Oo)」の方向に変えましょう。

発音(Diction)

 前の項で「長いウ」や「短いウ」など出てきましたが、母音や子音の発音を正しく身に着けることは、母音の統一や正しい言語の発音にとってとても重要なことです。日本人は、残念なことに、発音に対する意識があまり高いとは言えません。発音に対する意識というのは、「外国語が綺麗に発音できる!」といったことではなく「自分が出している音が、どういって発音され、どう聞こえているのか、という意識がある」ということです。日本では、学校で日本語発音、朗読、スピーチといったことをまるで教えませんし、そもそも日本語というものはアルファベットのような「表音文字」ではないため、実際の発音が分かり辛くなっています。発音が分かり辛いというのは、「は」を「わ」、「へ」を「え」と発音するというレベルの話しではなく、例えば、「ん」の発音には4種はありますし、「はひふへほ」の中には、3つの違う子音が混在しています(「はへほ」の子音、「ひ」の子音、「ふ」の子音は全て違います)。

 私は、IPA(International Phonetic Alphabet、いわゆる発音記号)を使いながら発音の指導をしていますが、アメリカでは、ほとんどの合唱指揮者や歌の指導者はIPAを使いながら音声学にのっとった発音の指導をしており、とても論理的であり効果があります。ここでは、詳しく述べることができないので残念なのですが、まず、みなさんはせっかく合唱(歌)をやっているのですから、それらの元になっている自分の音について、普段から意識を高く持つ心がけをしてみてはいかがでしょう?

 ちなみに、以下が私が指導で使う母音のIPAです(もちろん他にも子音があります)。口語日本語から、そのままクラシックのスタイルの歌に使える可能性がある母音は、大体の場合「お(O)」だけです。アメリカでは「英語はアメリカの合唱団にとって一番難しい言葉だ」とよく言われます。普段話している言葉だからこそ、自分の癖というものが出てしまうのが母国語であり、英語は人種間や地域間のアクセントの違いが母音の違いとなって強く表れるため団内の母音の統一が難しいためです。日本語を歌う時には、個人の「日本語」というものを一度白紙にもどし、合唱団として、音楽スタイルと発音から音を再構築するくらいの気持ちで望むと良いでしょう。

 

 上記の母音を身につけるだけで、英語の発音は格段に上手くなります。逆に、できないと、いつまでたっても発音はよくなりません。個人的には、小学校で英語を教えるなら、その導入として授業で、日本語の発音をおさらいし、その後に英語の「音」を身に着けるのところからはじめるのが、その後の日本語と英語の伸びの為になる、と思っています。そして、ここにウムラウトや、鼻母音を追加していけば、ドイツ語やフランス語など、他の外国語の音の取得が容易に、そして論理的にできるようになるのです。さて、一般的な英語の辞書に採用されている英語母音の発音記号は上の表にある12種とは多少異なります。これは、RPと・米国英語の違い、または英語話者により親しみのある記号をつかったり、といった実際面からIPAを多少変更させて使っていることに起因します。以下が、より正確な、歌のための(RP英語・イギリスのいわゆる放送英語)IPAの読み替えのコツです。

 [a] は [ɑ] とする。 特に重母音のところなど。後ろの母音の引っ張られて、[a] とする必要はない。

 [e] は [ɛ] とする。 これをやらないと、イタリア・ドイツ・フランス語など、[e] と [ɛ] の違いがあるものを学ぶときに困る。

 [ɚ] や [ər] は [ɜ:] とする。 米国英語系の辞書の時には読み替える。

 残念なことに、日本では簡略化した発音記号を採用している辞書も多く出版されています。せっかくならきちんとした発音記号を採用している辞書をもちましょう。[i] と [ɪ]、 [u] と [ʊ] の音の違いを表現していない辞書は論外です。

 さて、全ての母音の発音において、一番重要なことは「舌は常にリラックスしていること」です。クラシカルな合唱の母音発音時には、舌先は「常に舌前歯と歯茎の境目あたりにについてリラックスしている」のが理想です。特に日本語で「い」「え」「う」の発音のときと、高音域の発声の時に、舌先が宙に浮く人がいます。舌先が宙に浮いていても、口腔に十分なスペースを確保できれば良いですが、多くの人はそれができません。舌が落ち込んでしまったり、余計な力が入らないように意識してください。

 子音との組み合わせでは特に「り」または、ラテン語で「ri」「ry」の発音時に、R(はじくR、Flipped R)の発音の舌の形が解除されないまま(舌が上がりっぱなしのまま)、母音の発音に移行して、妙な発音になってしまっている合唱団が多くあります。特に気をつけましょう。

 「子音の発音が母音の発音のを邪魔しない」というのは、レガートの項でも述べますが、とても大切です。

 以下は、2013年の第一回名古屋ユースクワイア参加者のために作成した「実践的IPA、歌と合唱のための日本語・ラテン語・英語の発音の勉強」です。よろしければ参考にしてみてください。

ポテト・サウンド(Potato Sound)

 ハーレーのバイクが出すような音もポテト・サウンドともいいますが、ここでは関係ありません。ポテト・サウンドとは「ジャガイモをのみこんだようなフガフガした声、子音や母音が不明瞭な声」のことを言います。喉や口の奥が拡張させたのはいいのですが、子音の発音が不明瞭だったり、舌が奥に引っ込んでしまったりするとこのような音になります。

 舌がおくひにっこんでしまう人への簡易的な直し方としては、舌を出して発声してみることです。その感じがつかめたら、舌を普通の位置に戻しましょう。前にも書いたとおり「母音をいうときの舌の先は、舌の歯と歯茎の辺りにリラックスしておかれている感じ」が大切です。「イ」「エ」「ウ」で舌の先が上がってしまったり、舌が奥に引っ込んでしまってはダメです。

 子音が不明瞭な人は、「響きは口の奥のスペースで作るけど、子音は口の前の方で作る」というイメージを持つと良いかもしれません。

 全ての母音で口をあけすぎても、母音が不明瞭なポテトサウンドになるので気をつけましょう。

終わりの子音(Ending Consonants)

 日本語には、音価をもたない子音で終わる単語や音節が基本的には無いために、英語やラテン語など、語尾に子音がある言語を歌う場合、終わりの子音をしっかり発音しない合唱団が多くあります。子音一つだけで、言葉の意味が変わってしまうことは良くあります(例、Light「光」と Lie「うそ」、Say「言う」とSail「船出する」等)。タイミングを合わせ、しっかりと発音しましょう。特に、ディクレッシェンドで終わるようなラインでは特に注意して発音してください。

 指揮者の方は、終わりの子音をどこに入れるのか、はっきりと伝えましょう。

ソロの歌い方と合唱の歌い方の違い(Differences Between Solo and Choral Singing)

 ソロの歌い方と合唱の歌い方は違いますが、大きく分けて3点において違います。1つは、スタイル。もう2つめは、響き。3つめは母音の選択です。ここでは、スタイルと響きについて書いておきます。

 スタイルに関して言えば、「みんなが同じスタイルで歌うこと」が合唱の歌い方で、ソロはそうではない、となるでしょう。例えば、音と音との間にスライドを入れたり、装飾された音を付加して歌うポップスのスタイルがあったとします。ビブラートの質や度合い取ったスタイルも含め、「全員」がそのスタイルで歌えば、合唱として、統一の取れた音を作ることができます。そんなときに一人だけ「クラシック的」に歌っていたり、逆にクラシックの中で一人だけ「ポップス的」に歌っていたのでは合唱としてはいけません。色々なスタイルで歌うことができれば、自分の中の音楽世界もぐんと広がります。クラシックのスタイルだけではなく、スピリチュアル・ポップス・ジャズ・ワールド系など、色々なスタイルに、みんなで挑戦してみると楽しいと思います。

 響きに関してですが、クラシカルな歌い方に限って音響学的に言うと、クラシカルな合唱は、ソロよりも概して「開いた母音」を選択するか、またその方向に変化させるということと、「いわゆる地声から、中高域の倍音の大部分を取り除き、基音とそれに近い低次倍音を増加させた音色」をつかうということを行うたい、色々な音に染まりやすく、溶け合いやすい「素直な音」を作っていくことになります。クラシカルなソロは、合唱の時よりも、若干母音を明るめにすることと、「合唱の音色に、歌手のフォルマント(Singer's Formant)とよばれる高域の倍音を付加した音色」をつかい、「響く音」や「通る音」を作っていきます(この説明がさっぱりわかりません、という方はとばしていただいてOKです)。どうやってそれぞれの特徴と良さを身に着けるかは、長くなるので書けないのでですが、両方できるようになると、音楽の可能性がグンと膨らみます。以下、響きについてのコツを2つ書いておきました。参考にしてみてください。

 A)合唱のセクションの音色の中に「地声」や「ソロ」の音色が入ると目立ってしまうか、そのセクションの音色が「地声」か「ソロ」のものになってしまいます。「ソロ」の音色しかできない人たちは、ぜひ合唱の素直な音色も身に着けましょう。感じとしては「音を顔面(前)に集中させ過ぎない」のがコツです。周りの音をきちんと聞く、耳と心構えも大切です。

 B)バスの人たちは、ソロの響き(歌手のフォルマント)を低音域において少し音色に加えると、合唱全体が豊かになります。なにか、和音にしまりがない・音がほやけるなぁ、と感じたら、こっそりバスにアドバイスしてみてください。

レガート(Legato)

 歌がレガートで聞こえるには、基本的に3つのことが起こっていることが必要です。

 1)与えられた音符に対し、母音か又は持続できる有声子音が100%鳴っている。

 2)母音の響き統一されている。

 3)音高の意向が滑らかにつながっている。

 フレーズがなぜかスムーズに聞こえない・・・。それには、以下の4つが原因のことが多いです。

 A) 一音一音全力で歌う、または同じように歌うために、「フレーズに起伏が無い」または「音が階段のように」なっている。

 B) 子音を発音しようとして、前の母音が切れる。

 C) 持続可能な有声子音が弱い。

 D) 母音の質が統一されていないので、響きがバラバラ。

 歌の基本は「レガート」で、滑らかに自然につながっていることが大切です。A)は、年齢の低い合唱団によくありますが、歌詞、音型、リズムを考えて、滑らかなアーチを筆で描くような感覚で、大切な音に向かって、そしていつでも曲が前へ前へと動いていく感覚がつかめるようになるとよいでしょう。「お手本に歌ってあげる」「手を使って一緒に旋律を描いてみる」など、お手本を聞きながら体で身に着けていきましょう。

 B)は、外国語を歌うときに、よくおこります。歌の芯になる音は、音程をもった母音です。子音を素早く発音し、母音をできるだけ長く保つことが大切です。特に、子供が子音の多い外国語の曲を歌うと、複数の音節を持った単語の発音で音を切ってしまうことが多くあります(大人でも多いですが)。外国語の言葉の意味から考えていくことは、子供には難しいかと思いますが、ハイフン( ?)つながれた音節は一つの単語だと囲ってあげたり、音節の最後の子音を次の音節の頭に移してあげたりすると良いでしょう。 

 ラテン語「excelsis」 は「ex-cel-sis」 と譜面上では区切られますが、「e-xce-lsis」、またはもっと突っ込んで「e-ksce-lsis」 と書き換えてあげる。

 英語「important」は「im-por-tant」と譜面上では区切られますが、「i-mpo-tant」と書き換えてあげる(rの発音も一緒にはずしてあります、ちなみに英語の歌の発音でRをはずせるところは決まっています)。

 ドイツ語「G?tterfunken」は「G?t-ter-fun-ken」と譜面上では区切られますが、「G?-ter-fu-nken」( t も1つ消す)か、必要ならば「G?-te-rfu-nken」( r を後ろに)または「G?-te-fu-nken」( r も難しいなら消してしまう)とする。

 など、子供(または歌い手)がわかりやすいようなメモの仕方を教えてあげるのも手です。発音は、できれば「IPA」か原語で教えてあげるのが理想ですが、それがダメな場合は、「全部カタカナ」ではなく、必要ならば「カタカナとアルファベット混じり」の表記で教えてあげると良いでしょう。たとえば、「im-por-tant」を「イン - ポー - タント」ではく「イ - mポ - タnt」としてあげる等。

 C)は、同じ音が連続するときに、よくおこります。子音をすこし強調して、音の線に活力をあたえましょう。

指揮(Conducting)

 以下のことを覚えておくと良いでしょう。

 A)気になったところは、すぐに直しましょう。癖になったら、直すのが大変です。

 B)「こう歌ってほしい」と思ったら、実際にそのラインを歌ってあげましょう。

 C)最終的には、リズムを指揮するより、フレーズを指揮をしましょう。  

 D)「Less is more」ということが多分にあることを覚えておきましょう。

 E)合唱指揮者とは、指揮者、歌手、ボイストレーナー、教育者、歴史・言語・社会学者、役者のミックスであり、合唱団と地域社会を「inspire」する人です。

フラットになる (Going flat...)

 人間の声というものは、そもそもフラットになる傾向があります。「高い音にジャンプをすれば微妙に届かず、低い音に動けば踏み外し奈落の底に落ちていく・・・」といったことは、よくあるのではないでしょうか?地球の引力が、声にも働くのか!?と首を傾げたいところです。さて、私たちが、フラットになる原因には大きく3つあります。それは、

 A)物理的にその音程が歌えていない

 B)音響心理的に、音程が低く聞こえる

 C)音律的に、音程が外れている

 指導では、大体ABCの順で直していくことになりますが、ここではBとCについて、軽く触れておきます。

 まずB)です。とくに合唱で使われる音色は、中高次倍音をあまり出さないため、基音と低次倍音が大きいの音色になるのですが、この合唱の音色は、中高次倍音を含んだ音色に比べると、同じ音程を演奏したとしても音響心理学的に低く聞こえます。

 それではこの(mp3、スピーカーが小さいと上手く違いが聞こえないことがあります)を聞いてください。満遍なく高次倍音を含んだ音(まぁ地声みたいなものです)と含まない純音(合唱のための混ざりやすい音)をシンセサイザーでシミュレートしたものを交互に鳴らしています。後に聞こえる純音のほうが「低く」聞こえませんか?でも、先に鳴らした音の方の音程の方がほんの少し高いのです!

 それでは、この(mp3、スピーカーが小さいと上手く違いが聞こえないことがあります)を聞いてみてください。倍音を適度に含んだ音と含まない純音を交互に鳴らしています。やはり、先になっている音のほうが、高く聞こえるでしょう?そして、純音よりも、音程が安定しているように聞こえるかもしれませんね。

 みなさんは、口蓋垂(Uvula)と軟口蓋(Soft Pallete)を上げて!といわれたことがありますか?それは、豊かでリラックスした音作りや歌手のフォルマント(高次倍音)を発声させる(このことを俗に「響かせる」といいます)のに重要なことなのですが、合唱の音色を作る際に、「少しだけ」歌手のフォルマントを音色に混ぜてあげます。そうすると、あら不思議、本来の音程が安定して聞こえるようになるのです。このことは、とくに同じ音が繰り返されたり、同じ音を持続するようなラインがフラットだと感じるときにチェックするとよいでしょう。

 次にC)です。皆さんは、平均律という言葉は聴いたことがあると思います。ピアノなど私たちが一般に使っている音律です。さて、音楽をやっている人は、純正律というものを聞いたことがあると思います。主要3和音がよく響く音律です。でも、皆さんはピタゴラス音律というものはあまり聞いたことがないかもしれません。これは旋律が気持ちの良い音律です。

 さて、実際には「平均律をベースに、純正律とピタゴラス音律を要所に使用しながら歌う」と、音程が保て、和音も響き、さらに旋律も生き生きとした演奏ができます。ここでは、それぞれの音律の詳細は述べませんが、音律に関して2点注意すべきところを書いておきます。

 まず1点目は、長和音の3度音で、ドミソの和音で言えば、ミの音です。重要なところでの長和音の3度は少し低くします!という意見があります。それは、そのような場合、純正律を使用すべきで、純正律の3度はピアノ(平均律)の3度より少し低いからです。さて、この意見は全くの正論なのなのですが、不用意に合唱団がこれをやると失敗します。まず、私たちの耳と脳は、そのような重要な和音では自動的に純正律を歌いたくなるようにできています。これは、それが物理的にも心理的にも、そのような純正律の使用が自然で私たちにあっていて、そこにひきつけられるからです。さて、そのことを無視して「ミを少し低くとろう」とイメージしたとします。そして私たちの声の傾向にあるように、実際の音がイメージよりも、ちょっとフラット気味に発声してしまったとします。さらに、軟口蓋が下がっているために、さらにフラット気味に響いてしまったとします。こうなると、このミはフラットすぎて使い物になりません。理論に基づいた「ドミソの和音のミはピアノのミより、ちょっと低いほうがいい」という知識が、悪く働いた例で、意外とよくおこってしまいます。

 私の意見としては「理論としての純正律のことは、とりあえず忘れてもよい」です。それよりも、「重要な箇所で、自分の耳が正しいと思った音程を正確に歌う」ために、常に低くなりがちな私たちの声を自覚し、必要ならば「若干、高く歌う」くらいの気持ちをもつ、でよいと思います。

 さて、もう1点ですが、これはピタゴラス音律のことです。詳しくは書きませんが、例を挙げると「旋律を歌うなら、ハ長調のミは平均律よりも、ちょっと高く、ハ長調の導音のシは平均律よりもちょっと高く歌うと、とても清々しく聞こえる」ということです。特に早い動きの音階の旋律、例えば「ドレミファソー」というのがあったとします。このときに、多くの歌手の「ミ」が、かなり低くなることが多いのですが、この「ミ」を確実に高くとり、ソにしっかりたどり着くと、旋律がとても生き生きしてきます。

 ピタゴラス音律は、「調性」という音世界の中で「豊かにメロディーをつくる」ためにとても大切なことで、「豊かにハーモニーをつくる」ための純正律とは、「どの方向にも自由に行くことができる」平均律をはさんで対極にあり、これら全てが良い音楽作りには欠かせません。

 実際のところ、音律のことは理論だけ知っていても、合唱作りにはあまり役に立たないのですが、「私たちが自然に持つ音感覚」「音律に関する知識」と「声の性質と傾向を理解した上(重要)」での「適した音を選び出し、それを演奏する力」は、より素敵な合唱を作るのに大きな助けになります。ぜひ色々実験をしながら、音の多様性と不思議を体験しつつ音楽作りに生かすことができれば最高です!

 補足ですが、低音域での長二度(全音)の上昇は、フラットになりやすいのです。特にバス、気をつけましょう。

ビブラート (Vibrato)

 ビブラートは合唱のときにどうしましょう?という質問をよく受けます。私は自分が合唱曲を歌うときは、普通はノンビブラート、「かなり控えめなビブラート」を長い音を伸ばすときに少しずつ入れるということを基本に、あとは「スタイル、音域、音量にあったビブラートを選択」しています。みなさんも、ビブラートを使う、使わない。使うとしたら、どこで、どんなビブラートを、どれくらい、と選択できるのが一番良いですね。例えば、ルネサンスの曲はノンビブラートを基本に、スピリチュアルやゴスペルはたっぷりのビブラートにスライドを混ぜたり等々・・・。

 「ビブラートができません」という人も大丈夫です。柔らかい合唱の発声から紡ぎだされるノンビブラートの歌声は、とても魅力的で、クラシカルな合唱において、どんな時代の曲でも通用します。日本では残念ながら経験する機会が少ないかもしれませんが、長い残響のある石造りの大聖堂に響くノンビブラートの柔らかな声は、とてもステキですし、そもそも合唱は多人数で歌うものなので、みなさんのピッチの微妙な違いが音の厚みとなり、ビブラートを使わなくても合唱全体で豊かな音になります。

 「ビブラートがきれません!」という人がいますが、そういう人はまずビブラートがかからない音量まで声を下げてから、だんだん大きくしていく練習をしてください。

 ビブラートのを身に着ける練習法、ビブラートをコントロールする練習法、そして悪いビブラートの矯正法などなど、ここでは書きませんが、柔軟なビブラートの能力というものは音楽表現に豊かな幅を与えてくれるものです。ぜひ身に着けておきたいものですね。

 ビブラートを使うコツを書いておくとすれば、それは「ビブラートは音程がゆれているもの」であるという、ごくごく当たり前のことです。音程がゆれている、ということは「音が込み入った和音や曲」にはビブラートは適さない、ということになります。「確実に音程を取らなければいけない和音」の時も、もしビブラートを入れるなら、和音の頭からではなく、音程が確定するまで少し待ってから入れるなど、正確さと豊かさの両方を手に入れることができるようになればバッチリです。

新曲視唱(Sight Reading)

 さて、みなさんは初見での演奏は得意ですか?新曲視唱ができると、新しい曲もより深く歌うための練習時間も取れるし、少人数でちょっと集まって、すぐにコーラスができたり良いことばかりです。新曲視唱を練習するのはなかなか、難しいと思います。ちょっとしたコツを書いておくので参考にしてみてください。

 新曲視唱には、大きく分けて2つの力が必要です。それは「正しいピッチを取る力」と「正しいリズムを取る力」です。新曲視唱になれていないと、ピッチが崩壊した時点でわけがわからなくなってしまう、または、ピッチを探って常にリズムが崩壊する、といったことが良くおこります。私は、合唱団には、「初めての曲は、ピッチは捨ててもいいけど、リズムは完璧になるように集中して視唱すること!」といっています。「正しいリズムを取る力」というのは、音符の形のパターンを覚えてしまえば以外に早く身につくものです。リズムが完璧ならば、その分、ピッチを探るのに使う時間もとることができます。

 「初見は、まずリズムから」と覚えておきましょう。

 さて、ソルフェージュ関連で「移動ド」にしますか?「固定ド」にしますか?と聞かれることがありますが、今から始める人たちは、「移動ド」で、さらに「派生音も一音節で簡単に示すことができる移動ド」すなわち、「英語式の Do Re Mi を使った移動ド」で練習するのがベストだと思っていますので、私はそれで指導しています。正しい音をとるだけなら、移動ドでも固定ドでもどちらでも良いのですが、移動ドを使うと「私たちが普段使っている調性の中で音が持つ意味」ということが理解されやすいので有用なのです。さらに突き詰めていけば、移動ドでも固定ドが歌えるようになるので問題ありません。英語式を導入するわけは、派生音全てを固有の一音節で表すことができるからです。日本語のドレミでは、「ドレミファソラシ」しか使えないために、たとえばハ長調で「Ab、A、A#」を「ラ ラ ラ」と同じ音を使わなくてはいけません。派生音だけドイツ語でやる人もいますが、ドイツ語を日本語読みすると、一音節で表せませんし、ドイツ語読みをしたとしても、音節の終わりに子音がくるので良くありません。移動ドも難しくなってしまいます。その点、英語式では上記の「Ab、A、A#」の場合「Le, La, Li」となり、派生音にも固有の名前が与えられ、さらに一音節、終わりの子音もない、と良いことだらけです。これからはじめる人たちは、ぜひ英語式のソルフェージュをもとにした、佐藤メソッドを試してもらいたいです。「R」と「L」の練習にもなりますし、日本語のドレミとやるより、より一層、調性内での一音一音の素晴らしさが感じられますよ!

口をあける?(Opening My Mouth?)

 「口を大きく開けて歌いましょう!」とはよく聞かれますね。・・・でも、忘れてください。そのかわり「口は、母音の種類・音域・音量に適した形に開けて歌いましょう!」と「口の中と喉は大きく開けて(空間を確保して)歌いましょう」と覚えてください。

 「軟口蓋をあげる!」「あくびをする」「口蓋垂をさげない」「舌を落ち込ませない」など色々アドバイスがありますが、「目に見えないから、チェックをするのが難しい!」のですが、頑張りましょう。

ダイナミクス(Dynamics)

 「そこにフォルテと書いてあるから、フォルテにしました」という理由で音量が大きくなるというのは、つまらないですよね。音楽的に導かれて「必然的にそのダイナミクスになった」となるように、全体的な構成からダイナミクスを考えてみると、深みがある演奏ができます。また、そこにフォルテと書いてあったら、そのライン全体は大きいという理解ではなく、そのフレーズがフォルテであり、フォルテの中にも、様々なダイナミクスの表情があることを考えて演奏できたらバッチリです。

 特にピアノやピアニッシモで歌うと、音量と共に、気力(エネルギー)まで落ちてしまう合唱団があります。そんなことが無いように、静かなラインは、静かなエネルギーに満ち溢れた演奏をしましょう。

 人間は、小さい音から大きな音への急激な移動には、わりと敏感ですが、大きな音から小さな音への急激な移動には意外と鈍感で、小さな音を認識するまでに若干のタイムラグがあります。ですので、音楽的に間をおくことができるなら、少し耳へ休憩をあげると、次の小さな音のラインが生きてきます。

スタガード・ブレス(Staggered Breath or Breathing)

 日本では「カニング・ブレス またはカンニング・ブレス(cunnning breath・ずるい息?)」で呼ばれていることが多いようですが、「スタガード・ブレス staggered breath(ずらした・時間差をつけた息)」が実際に何が起こっているのか適切に表しているので、私はこちらの用語を使います(最初にカニング・ブレスと言われたとき何を言われたかわかりませんでした、和製英語なんでしょうか?)。

 さて、ここではスタガード・ブレスが何なのかは説明しませんが、実際の運用に関してのコツは、「セクションわけをしたときに、あらかじめ各セクションのそれぞれの人に、1から4くらいまで(必要に応じて増やしてもいい)番号を割り振っておく」ということでしょう。それをしておくと、「じゃ、ここはスタガードブレスをしましょう、1の人は、ここ、2の人はここ、3の人は・・・」と、かなり早く息を吸う場所を割り振れます。「スタガードブレスをしてください」や「あとで各セクションで相談をしておいてください」だと時間がかかったり、やらなかったり、安定したブレスが取れなかったりします。あらかじめ割り振ってある番号にしたがって、振り分ければ、効率よくスタガードブレスを運用できます。

無声子音のアタック (Unvoiced Consonant Attack)

 「k」と「g」、「t」と「d」など、無声と有声の子音があるペアがあります。基本的に、「k」を「g」を両方言うと「g」に聞こえ、「t」と「d」を同時に言うと「d」に聞こえます。

 このことを利用して、語頭の「g」の子音がなんとなく活力が足りないなぁ、と思ったときに合唱団の何人かに「k」をエネルギッシュに発音してもらうことによって、「g」に活力をあたえることができます。例を挙げると、ラテン語の「Gloria」を「Kloria」を言ってもらう、ということですね。

 実際の運用では、必要なときに、1/4か1/3ぐらいの人に、無声真で発音してもらうことが多いですが、半分の人に言ってもらったときもあります。エネルギーが足りないなぁ、と感じたら試してみてください。

アップ・エンディング(Up Ending)

 フレーズの一番最後の音を切る瞬間に、サポートが無くなって音程が下がり、音と響きが墜落してしまう合唱団があります。フレーズの最後は、音と響き、そして自分と自分の気持ちが上へ、天井へ方向へ飛んでいく、又は空に吸い込まれていく感覚で歌いきりましょう。気持ちの良いさわやかな終わり方になります。

 でも、上の方向といっても、アゴや頭を上げてはいけません。

男声のためのファルセット(Falsetto for Men)

 テナーは「ファルセット」を身に着けることが重要!!と言われた人も多いでしょう。ファルセットは良い合唱には必須のもので、多くのポップスの曲を歌うのにも必要です(ポップスの場合、もう少し拡張させた「男声のミックスボイス(Mixed Voice)」として呼ばれることがあるかもしれませんが)。私個人はバリトンですが、ファルセットはテナーのみならず男声全員に必要なテクニックです。ファルセット/ミックスボイスの詳細やや練習方法を書くのは別の機会にして、ここでは「ファルセット」というものを理解し練習するにあたり、とても重要なこと3つ書いておきます。

重要なこと1つ目

 「いわゆる”ファルセット”は、声帯が作る音」です。

「そんなのあたりまえだー!」という人もいるかも知れません。ですが、殆どのウェブサイトや書籍は、ここの説明が欠けているか間違っているために、とても分かりにくいものになっています。ですので以下の文をしっかり読んでください。

 声には、声の基となる振動を作り出す装置が「2つ」あります。それは「声帯」と「仮声帯」と呼ばれるもので、それぞれ「違う器官」です。男声は通常「声帯」か「仮声帯」のどちらかを選択して発声を行います。まぁ、あえて両方使って無理やり発声をすると・・・

 (mp3)こうなります(自分で録音しながら笑ってしまった)。

 注・このような二重の音を無理やり作るのは声の健康に良くないので止めましょう。声帯にポリープなどができて、通常の運動ができないときも症状として、このような2重の音がでるときがあります。

 「声帯」や「仮声帯」と呼ばれるものが何なのかは、ここでは説明しませんが、気をつけて欲しいのは「仮声帯」を使った音がファルセットと混同されやすい、ということです。私は、この仮声帯をつかった発音を「仮声」と読んでいますが、歌には適しません。

重要なこと2つ目

 「いわゆる”ファルセットは、声帯の一部だけが振動している状態」です。

 現在の科学では、発声に際して声帯の動きの違いを以下の4種類にわけています。

 「Modal Register(モーダル・レジスター)」「Falsetto(ファルセット)」「Vocal Fry(ボーカル・フライ)」「Whistle Tone(ホイッスル・トーン)」の4つです。ここでは、ボーカル・フライとホイッスル・トーンの説明は省きます。

 モーダル・レジスター(modal = 典型の)というのは、声帯全体がダイナミックに動き、もっとも個人の倍音の特徴がでやすい(各人の声がはっきり分かる)声帯の動き方です。普段、話すときも、歌を歌うときも、通常はこの動きになっています。日本では、「実声」と呼ばれていたりしますが、色々な意味で捉えられそうなので、ここでは「モーダル」と呼ぶことにします。

 ファルセットは、モーダルと違い、声帯全体ではなく一部が振動する現象です。モーダルの動きに比べて、声帯の動きにダイナミックさに欠けるため、音もモーダルにくらべれば、個人差が出にくく(倍音の違いが出にくい)、音量も弱いものになります。

 声帯の動きを、イメージすると

このダイナミックな動きが、モーダル

この控えめなのが、ファルセットです。

 もちろんファルセットは話し声のときにも使えます。

 例をとり、「アメンボ 赤いな あいうえお」を、「モーダル→ファルセット→ボーカル・フライ→息を吸いながら」の順番で録音しました。

mp3

重要なこと3つ目

 「いわゆる”ファルセット”の中でも、歌に適しているのは声帯の緊張がしっかりとコントロールされたファルセット」です。

 声帯の緊張、というのを具体的にイメージするために、まずは「輪ゴムを指に引っ掛けて、ビンビンとはじく」というのを想像してください。もちろん、しっかりした音を出すには、輪ゴムがたるんだままではダメで、ある程度ひっぱって緊張させないといけません。声帯も基本的には同じで、上手く振動させるには、ほどよい緊張感をもたせていないといけないわけです。

 イメージで言えば、西部劇の酒場にでてくる、パタパタ動くドア(ウェスタン・ドア)を想像してくれると分かりやすいかと思いますが、しっかり機能しているドア(声帯)は、沢山のカウボーイ(息)が通過すれば、パタパタと音を鳴らして良い感じに開いたり閉じたりします。ガタがきている(コントロールが甘い)ドア(声帯)は、カウボーイ(息)が通過したら崩壊してしましまったり、片方だけ動かなかったり、と大変です。

 ファルセットというのは、基本的に声帯の一部分だけを使うために、ファルセット初心者の人は、どちらかというと全体の緊張感を抜きすぎてしまう、緊張のコントロールをやめて音を出そうとします。もちろん、これでもファルセットの音は出るのですが、少し大きい音にしようとして、カウボーイが勢いよくドアに突入すると、ドアが壊れます(大きな音量にできない)。そして、低い音を出すために、緊張感がない声帯に、さらに緊張をぬこうとすると、輪ゴムがフニャフニャになって音がでないように、声がでなくなります(低音域がでない)。これは、いいかえれば、「(声帯の緊張が)コントロールされていないファルセット」ともいえるでしょう。

 「(声帯の緊張が)コントロールされたファルセット」というのは、声帯の一部だけを柔軟に使いながらも、音量の拡大や、特に低音域の拡張に際しても適した声帯周りの緊張のコントロールができているファルセットのです。

 

 さて、ここまで書いてくると、いわゆる「ファルセットのような音」には、3種類あるということが分かります。

仮声帯がつくる「仮声」

使い勝手が悪い声帯による「コントロールされていないファルセット」

歌で使うべき声帯による「コントロールされたファルセット」

 もちろん、各人の声質や、音域によって、これらの音色的な違いに余り差異がないかもしれません。それなら、どれを使っても良いではないか!となるかもしれませんが、私が皆さんに「コントロールされたファルセット」を身に着けてもらいたい理由は、「仮声」や「コントロールされていないファルセット」ではできないことがあるからです。

コントロールされたファルセットにできること、その1 ブレイクがなくなる

mp3)このように、低音域から、上までブレイクなしにあがることができます。

mp3)もちろん上から下に向かうこともできます。

mp3)これはいけない(笑)。

 上を仮声帯で発音していては、下に行ったときに声帯に移行したときに、音がブレイクします。コントロールされてないファルセットでは、低音域で声帯の緊張を緩ませなければいけないときに、緩みすぎて振動を維持できず「ドア」が崩壊してブレイクします。

コントロールされたファルセットにできること、その2 モーダルへの移行、ダイナミクスの移行が簡単にできるようになる

 (mp3)ファルセットで静かに始めて、クリシェンド、モーダルで最大の音量に達してから、だんだん弱くなり、またファルセットで静かに終わる(注、下手でゴメン・笑)

 (mp3)これはダメだー(笑)。

 仮声では、発声体が違うために、モーダルにスムーズに移行することは物理的に不可能なのでクラックします。コントロールされていないファルセットでは、音量を大きくするために息のスピードを早くすると、勢い欲飛び込んだカウボーイがドアを壊すようにクラックします。

 このように、「コントロールされたファルセット」を身に着けていくことは、音域の(特に上方向に)拡張する、モーダルと簡単に行き来できる柔らかい音を手に入れることによって音量の表現の幅が拡張するという素晴らしい効果が有ります。さらに合唱では、モーダルよりも倍音が少ない(あまり主張しない音色)のファルセットは、特に混声合唱において、女声の音色と上手く溶け合うためには必須の技術になります。もちろんこの技術を磨いていくと、現在のポップスを歌うときには必須の、いわゆるミックスとよばれるモーダルとファルセットの中間あたりの音色も上手く使うことができるようになってきます。

 刻一刻と、音程と音域が変化する合唱曲を歌うには、やはり、男声は、コントロールされたファルセットを身に着けていきたいものです。声変わりが一通り終わった中学生後期/高校生くらいから、ファルセットの練習は可能です。ぜひ、ファルセットを身に着けて表現の幅を広げましょう!

 で、肝心のファルセットの練習法ですが、それは、改めて書いていきたいと思います(ゴメン)。ですが今の段階で、覚えておいてもらいたいのは、コントロールされたファルセットは、中低音域、つまりは普通の話声のところでも使うことができる、ということです。歌の練習だけでなく、通常の話し声の中にも、このような柔らかい音を「たまには」取り入れていくことができれば良いと思います。特に、必要に応じて語尾を柔らかく処理できる言葉遣いができるようになると、話し方の表現力が一気に上がります。

 

 ファルセット/ミックスのソロでの使用例です。参考までにどうぞ。

Ken-P3声ファルセット (mp3

大御所ファルセット(笑)

楽譜に無いこと(Beyond Scores)

 楽譜には「音楽作りに必要な情報」は書かれていますが、「素晴らしい音楽作りに必要な情報」は書かれていません。「素晴らしい」を補うのは、みなさん一人一人の知識(Knowledge)と技術(Skill)が情熱(Passion)の上に成り立った力です。

 歌や合唱など、歌詞がある音楽は、それが表現の大きな道筋となるでしょう。また、楽譜というものの性質、そこに書き表しやすいものと、書き表しずらいものがある、ということを知るのも重要な点です。

感動をあたえる(Moving Someone's Heart)

 人間は、いつの時代でも、器楽奏・指揮者・作曲家ではなく、歌手に最大の賞賛・地位・名誉を贈ってきました。

 それは、どれだけ早く演奏したか、どれだけ正確に演奏したか、どれだけ沢山の音を演奏したか、どれだけ大音量を出せたか、どれだけ素晴らしい音色を出せたか、等で私たちは「感心(impressed)」できますが、私たちが「感動(moved)」するのは「音楽が、真に”歌われた”ときだけ」だからです。

 近いうちに、発音、発声、歌の練習、合唱のポイント、歴史、指揮など、歌手と指揮者そして舞台人・音楽家としてのそれぞれの面から、わかりやすくも面白い教科書のようなものを作ってみたいな、と思っています。日本は合唱指導や教育法を教えたり研究したりする教育機関も、合唱関連の書籍量も、欧米諸国に比べて圧倒的に少なく、とても残念なのです。その差を埋め、みなさんの熱意と合唱に対する高い意識に答えることができればなぁ、と思っています。と同時にいつか、日本も世界レベルのレコーディングもこなすことができるプロの合唱団と、合唱音楽・指揮をしっかり学べる大学課程を作ることができたらいいな、と思っています。

 意見や質問がございましたら、遠慮なく以下のメールアドレスに連絡をしてください。

佐藤賢太郎(Ken-P)